※今回は、エセ3人称…というか、書き手の実況中継的なかんじでお送りします。3人称書けない人が無理矢理書いてるので読みづらいです、ごめんなさい。




ストレンジ・ホリデイ。*1

 カップボードを覗きこんだリノアが、金切声を上げた。
「な、な、なんでカップがお揃いなのよっ!?」
 棚の中には、白地のマグカップが二つ仲良く伏せられていて、色違いの刷毛目模様が施されていた。
 スコールが困惑しながら申し開く。
「別に…お揃いにしようと思って買ったわけじゃない。俺のカップをサイファーが割ったから…」
「代わりのマグを買ってやって、気に入ったから俺も同じのを買ったんだ」
 リビングから、キッチンのふたりをカウンター越しに覗きこんで、サイファーが後を引き取った。
「なんか文句でもあんのか? ん?」
 にやにやと笑って挑発してくるサイファーをひと睨みしたリノアは、表情の変化を見逃さないよう、
スコールの顔をじーっと見上げる。
「一緒に買いに行ったの?」
「それは…そうだけど」
 単なる買い物なのに。
 スコールはリノアをどう納得させたら良いのか判らず、口ごもってしまう。
「……アヤシイ。」
 リノアは下唇を突き出して、自分の騎士を上目づかいに見据えた。

 昨晩の電話で、リノアが突然、午後の予定をキャンセルしてバラムに来ると言いだした。
(どうしても顔が見たいの。夕方までしか一緒に居られないけど)
(忙しいんだろ? 無理しなくていいのに)
 ティンバーとバラムで、それぞれに多忙な生活を送っているふたり。
 デートは月1回が普通で、つい先週会ったばかりなのだが…リノアのイレギュラーな言動の理由が、スコールにはうっすら察しがつくだけに、少々胃が重たくなる。
(だって、スコールの次のオフ、いつになるか分からないじゃない)
(そうだけど…)
 先週のデートで、スコールはリノアを怒らせてしまった。
 最後にはどうにか機嫌を直してくれたけど……予定を変更してまで会いに来ると言うのは、やっぱりまだ何か疑われているんだろうな、とスコールは無意識に眉間を押さえた。
(見たい映画があって…でもその前に、久しぶりにバラムガーデンに寄りたいなぁ)
(ガーデン? …何で?)
(いいでしょ! ね、あの建物が懐かしいの!)
 なんて言っていたリノアだが、カードリーダー前にスコールが迎えに行くと、有無を言わさず、指揮官居室、つまりここ、サイファーとの二人部屋に直行した。
 完全に抜き打ち検査です。

「リノア、考え過ぎだ」
「ほんとにぃ~??」
 思いっきり疑っているリノア。
 スコールとサイファーは、幼馴染みでライバルで、ガンブレマニア同士。額の傷もお揃いだし。
 何と言ってもスコールは、目が合うだけでくらっとくるような美人だし!
 リノアはひとり鼻息を荒くした。
 そもそもの最初、スコールが、どこか言いにくそうに「サイファーと同室で暮らすようになった」と告げてきたとき、嫌な胸騒ぎがしたのだ。なにか禍々しい事件が起こりそうな…そんな予感。
「本当だ。俺とサイファーは、リノアが心配してるような…変な関係じゃないんだ」
(リノアの思ってるような関係じゃない…確かに、以前よりは距離は縮まった気がするけど)
 スコールはなんとかリノアを宥めようと説明しながらも、なぜかほんの少しだけ気が咎めた。
 そんなスコールの微妙な心の乱れを察してか、魔女はさらに激しく追及してくる。
「じゃあ、あのキスマークはいったい何よ!?」
 リノアの不吉な予感は、とうとう具体化した。
 先月のデートで、スコールのうなじに赤い鬱血の跡を発見したときには、思わず逆上して見境なく問い詰めそうになった。
 しかし、ここで大喧嘩でもしてスコールとの愛の絆にヒビでも入れば、それこそ敵の思うツボ。
 辛うじて踏みとどまったリノアは、スコールが眠っている隙に、その忌々しい印の隣に、新たに「これでもか!」と派手なマーキングを施した。
 大人のオンナらしい反撃をしてやったつもりだった。
 それなのに。スコールはその次のデートで、なんと背中にキスマークを付けられてきたのだ!
「あれは…」
 その件は思い出したくないスコールだが、否応なしに思い出して赤面した。

 * * * * *

 先週のある朝。
 デートに行く前、スコールは前回の教訓に学び、念のために自分のうなじを鏡で点検した。
 すると、後ろ髪をかきあげた所に、ロクでもない内出血がくっきりと残っているではないか。
 犯人のサイファーは早朝任務に発った後で、スコールはやり場のない怒りを抱きつつ、それを消して出かけた。
 しかしそれは、陽動というか、一種のダミーだったのだ。
 まさか背中にまで付けられているとは、思い至らなかった…。
(スコール! 何よ、コレはっ!!)
 第一発見者となったリノアは、今度こそ爆発した。
 爆発されたスコールが、帰宅してサイファーを問い詰めると、彼はしれっと犯行を認めた。
(ま、前とおんなじじゃつまんねーだろーと思ってよ。それにしてもお前、キレイな背中してんな~)
 正気の吹っ飛んだスコールがガンブレードを持ちだしても、サイファーは慌てなかった。
(お前、ここでそんなもん振り回して俺を斬り倒したら、コミッションに何て報告するんだ?)
(なっ…)
(俺は監視官をして、ガンブレードで制圧しなけりゃならないほどの危険人物になっちまうわな)
(…)
(そーするとお前が苦労して作ってくれた、素晴らしい更生計画に支障が出るよな?)
 なんと自分の身柄を盾にする卑怯な脅迫。
(…あんた、ホントにガルバディアに引き渡してほしいのか!?)
 スコールはそう怒鳴ってみせるが、引き渡すわけがないとお互い分かっているのがまた頭に来る。
(物騒なモン仕舞えって。なあ、そこまで怒ることねえだろ。減るもんじゃねーんだし)
(俺の寿命が減ってる!)
 しぶしぶブレードを下ろしたスコールの抗議に、サイファーは目を細めた。
(妬いてる女っつーのも可愛いじゃねえか。結局仲良くして来たんだろ? ん?)
 見透かすように笑われて、その日のベッドがスコールの頭をよぎり、カーッと頬に血が上った。
(…っ、あんたに関係ないだろ!)
(お。関係ねーのか、そりゃあ残念だな。それじゃ、おやすみ)
 はっと気付くと、サイファーは扉の向こうに消えていた。
 また煙に巻かれてしまった…。
 予算があろうがなかろうが、絶対に自室の鍵を直してもらう。
 なんならもうこの際自費でもいい!とスコールは誓いを固めるのだった。
 回想終わり。

 * * * * *

「あ…あれは、言っただろ。ただの嫌がらせだ」
 視線を泳がせて恥じらうスコールに、何よ、色っぽい顔しちゃって~!とますます苛立つリノアは、「甘いっ!」とスコールにびしっと人差し指を突きつける。
 嫌がらせにしたって、好きでもない同性の首だの背中だのにキスするわけないじゃないの。
 ほんっとにスコールって、分かってない! SeeDのくせに、隙があり過ぎなのよ!
 何しろスコールは流されやすいんだから! とリノアは拳を握りしめる。
 自分だってダムの放水並みにざんざか流しまくってゲットしたことは、すっかり棚の上だ。
「サイファー!」
 リノアは、ぐるりとカウンター越しにサイファーに向き直る。
「ん? なんだ?」
 恋人の尋問に遭うスコールをソファから見物していたサイファーは、突然矛先が自分に向いても、一向に慌てず、鷹揚に応じる。
「サイファー、そうなの? スコールの言う通りでいいわけ?」
 めらめらと嫉妬の炎を燃やすリノアに相対し、サイファーは余裕たっぷりの態度で答えた。
「スコールは別に嘘はついてねーよ。ま、ソイツの方はそういうつもりだって事だな」
「サイファー、そういう妙な言い方で、話をややこしくしないでくれ」
 スコールは顔をしかめつつ、リノアを刃物のあるキッチンから、さりげなくリビングに連れ出す。
「ふうん、そおぉ。つまり、サイファーの方は、そういうつもりじゃないわけね?」
「おいおい、リノア、いいのかよ? すげーコワイ顔になってるぜ、お前」
 それじゃあ百年の恋も縮みあがっちまうぜ? とソファで長い足を組み、肘掛けに頬杖を突いて、人の悪そうな笑顔を浮かべるサイファーの正面に、リノアは腰に両手をあてて立ちはだかった。
「おい、リノア…」
「スコールは黙ってて!」
 只ならぬ殺気に不安を覚えたスコールが割って入ろうとするのを一喝して、魔女は敵を睨み下ろし、ヒロインらしからぬ迫力で、腹の底から発声した。
「ねえ、サイファー。この際、はっきり言っときたいんだけど」
「おう、いいぜ。何でも言ってみろよ」
 休日のうららかな陽の射すリビングにたちこめる、きな臭い空気。
 固まっているスコールとは逆に、この状況を楽しんでいるらしいサイファーが、大胆不敵な笑顔でさらに魔女の苛立ちを煽る。
「わ・た・し・の・スコールにちょっかい出すの、やめて欲しいんだけど?」
「やだね」
 サイファー、即答。
「んまっ!」
「サイファー、あんた、何言って…」
 スコールが慌てて場を繕おうとするのを手で遮り、ゆっくりソファから立ち上がったサイファーは、今度は逆に魔女を見下ろし、悠然と口を開いた。
「こっちもこの際だからはっきり言わしてもらうぜ。スコール、お前も良く聞けよ」
「何よ。いいわよ、言ってみたら?」
 リノアも一歩も引かず、ほとんどのけぞるようにして、サイファーを睨みあげる。
 まさに一触即発。
 両者の間に、見えない火花が散り、サイファーはおもむろに宣言した。
「リノア。俺はお前なんかが出てくるずーっと前から、コイツは俺のモンって決めてんだよ」

「な…、何を言い出すんだ、サイファー!」
「そ、そうよ! 勝手に決めないでよね!」
 一瞬あっけに取られたカップルが、ほぼ同時に抗議の叫びを上げた。
「別に俺ひとりで勝手に決めたわけじゃねーよ。なあ、スコール?」
 サイファーはなおも楽しそうに、スコールに意味ありげに呼びかける。
「どういうことよ、スコール!!」
 リノアが凄まじい形相で再びスコールに詰め寄る。
 何しろ、リノアは当代一の魔女。
 この世のものとは思えない恐ろしさで、伝説のSeeDも思わず後ずさった。
「し、知らないっ! サイファー、変な嘘つくなっ」
 しかしサイファーは平然としている。さすがです、大将。
「冷てえなあ。お前が俺に言ったんだぞ?」
 身に覚えがないスコールが、心底驚いてサイファーの方へ振り返った。
「何を!?」
「『サイファー、ぼくとケッコンしてくれる?』って。」
「な、」

 何だって? …ケッコンって言ったのか、今。
 スコールの思考はフリーズした。リノアもショックで硬直している。
 数秒間、恐怖の沈黙があって、スコールが先に我に返った。
「い、い、いつの話だっ! 俺はそんな話知らない!」
「まーそーだろうよ。お前は都合の悪いことは全部忘れっちまうもんな」
 取り乱したスコールに胸倉を掴まれたサイファーは、冗談だけでもない口調でぼやく。
「……ねえ、スコール。いったい、どういうことなのかなあ?」
 そのスコールの背後から、奇妙に柔らかな、しかし別人のように低い魔女の声が聞こえた。
 では次回、サイファーさんの昔話をどうぞ。



2012.2.24 / ストレンジ・ホリデイ。*1 / to be continued …

 ヘンな話にお付き合いいただいた方、ありがとうございます!
 ベタな展開で面目ないです。またまた先に申告しちゃうと、サイファーさんの昔話も、端折っていいほどテンプレです。
 でも、どこまで端折る?って考えてくと、最終的に「このサイト自体を端折る」とゆー極論に行きつきそうなので、やっぱり書きます。

前回に戻る。 / Textに戻る。 / 続きも読んで遣わす。