スコールが早々と他界しちゃって、シングルマザーになった魔女のリノアと、スコールに生き写しの女の子と、サイファーの話です。まとめると「スコール死ネタ・サイ→スコ片想い・スコリノ両想い・スコール女体化?・サイ←娘スコ片想い・後半サイファー35歳」という、サイスコ的にいったい何がしたいのか本気で分からない話となっております。マジでお客様サバイバル。どなたか生きてますかー?

 えー、どなたかまだ見捨てずに残っていただいていると仮定して、話を進めます。スコールが19歳で他界してから、約6年後の秋。リノアと娘スコールは都合で一時的に実家に帰っていて、サイファーはバラムに居ます。リノア24歳の一人称です。サイファーは25歳、娘スコールは5歳です。娘スコールの名前は迷った末、スーにしました…。それでも大丈夫な方、よろしくお願いします!




もしもスコールが娘を残して死んだら妄想 * 1

「スー! スーったら。どこにいるのー?」
 さっきまでリビングのラグにちんまり座って、時計ばかり気にしていた小さな姿が見あたらない。
「何だよ、隠れちまったのか?」
 サイファーはガンブレードのケースを床に置いて、ローテーブルの下なんか覗いたりしている。
「いくらなんでも、もうそんなにちっちゃくないわよ」
「そう、分かってんだけどよ、ついな」
 いまお茶淹れるから座ってて、とソファをすすめる。
「どうしても何か、もっとちっちぇような気がしちまうんだよな」
 サイファーはそう笑いながら、グローブを外しながら腰掛ける。
 今日のサイファーは出張の帰りで、バラム軍下士官の正装をしている。
 良く似合っていて、すごくカッコいい。スーが憧れるのも分かる。…うちの家系、代々面食いだし。
「それで…カーウェイのオッサンはどうなんだ?」
「うん、だいぶ良くなったよ。今、リハビリに行ってる」
 退役したパパが交通事故に遭ってから、バラムの家を離れてガルバディアに来て、もう半年になる。
「へー、一人で行けるようになったのか。良かったな」
「担当の女医さんがすっごい厳しいらしいの。出掛ける前にも、行きたくないってため息ついてた」
「ガルバディア軍のナンバーツーにまでなったくせして、オッサンも案外情けねーな」
 サイファーは苦笑している。
 昔はどこか危なっかしい印象だったのに、いつのまにか不思議な穏やかさと迫力を身に付けたサイファーを見ていると、初めて会ったときから、ずいぶん時が流れたんだなぁって実感する。
 もしもスコールが生きてたら、彼はどんなふうに歳を重ねたのかな、なんて思いが胸の隅をよぎるけど、わたしはもう、いちいち泣いたりしない。
 わたしには、彼が遺してくれた大事な宝物がある。
 サイファーの前にティーカップを置くと、背後でぱたぱたっと足音がして、ドアの向こうで止まった。
「スーってば、どこに居たの? ほら、サイファー来てるわよ」
 振り返って、ドアの向こうからそっとこちらを見ているスーに呼びかけた。
「…うん」
 来るまではあんなに心待ちにしていたくせに、スーはおずおずと近寄って来て、わたしの後ろに隠れようとする。
「どうしたのよ。今度いつサイファー来るの? きょう何時に来るの?って、何度も聞いてたじゃない」
「そ、…そんなこときいてない!」
 あれ、秘密だったみたい。
 スーは小さな頬を赤くして、ヘンなこと言っちゃダメ!と必死のアイコンタクトで訴えかけてくる。
 サイファーはそんなスーを見つめて、目を細めた。
「なんだ、どうした。ん?」
 サイファーが優しい笑顔で笑いかけると、スーはもじもじと落ち着かなくなり、アリスブルーのワンピースのしわを直すふりなんかしている。
「スー、『いらっしゃいませ』、でしょ」
 黙り込んでしまったスーに、挨拶するよう促すと、後ろでサイファーが吹き出した。
「よっく言うぜ。リノアお前、そんなかしこまったこと、自分だって言ったことねえくせに」
「んもう、うるさいなぁ」
 確かにそうだけど。
「いーから、こっち来いよ、スー。お前、おっきくなったなぁ」
 サイファーがソファから立ち上がって手を広げると、スーは意を決したみたいに、たたっとサイファーの足元まで走って行った。
「重たくて、もう持ち上がんないかもな?」
「そ…、そんな太ってないもん」
 ちょっと意地悪なサイファーの言葉に、スーがずっと伏せていた顔を上げて抗議する。
「そうか?」
「きゃあ…、」
 サイファーは笑って、軽々とスーを抱きあげる。
「どーだ。ママより高いだろ」
「う、うん…!」
 嬉しそうな様子をわたしがじーっと見てることに気づくと、慌ててぱっと目を反らす仕草が、まるっきりスコールそのもので可笑しくなってしまう。
「ホントに、あいつのちっちぇー頃そっくりだな」
 スーをソファの上に降ろしてやりながら、サイファーが「連れて帰りたくなるぜ」なんて小さく呟く。
「ちょっと、やめてよサイファー」
 サイファーのとこ行く!なんて言い出したらどうするのよ。もちろん、スーはわたしのこと「大好き」っていつも言ってくれるけど、サイファーはまた別格なんだから。
「…アイツってだぁれ?」
 運よくそこの部分は聞こえなかったみたいで、スーは青い目をぱちぱちさせて質問して来た。
「スーのパパよ。強くて、優しくて、…世界でいちばん綺麗で、カッコ良かったんだから」
「…ふーん」
 あ。信じてないなー。
 スーはサイドボードのフォトスタンドに目をやってから、サイファーの方をちらっと見た。
 口には出さないけど、サイファーのほうがカッコイイってカオしてる。
「んもう! あの写真は、映りが悪いのよ。本物はもっともっと綺麗で、カッコ良かったの!」
「…うん」
 スーはわたしを上目づかいに見上げながら、一応納得するふりをする。
「あーあ。スコールったら、滅多に写真撮らせてくれなかったし」
「あいつ、写真嫌いだったもんな」
 サイファーが思い出し笑いをしている。さっきに見せた笑顔とも違う顔。
 昔のわたしは知らなかった。
 何の迷いもなくスコールを好きになって、攫うようにわたしのものにしてしまった。
「スーはオレンジジュースでいい?」
 うん!という元気な返事を背中で聞きながら、わたしはキッチンに入り、冷蔵庫を開けた。
 もし、あの頃のわたしが、サイファーの気持ちに気付いていたら…あれほど遠慮なく、スコールにぶつかっていけたかどうか分からない。
 今のわたしは知っている。サイファーはスコールを好きだった。
 わたしが彼を好きになったあのパーティの夜よりも、ずっとずっと前。
 もしかしたら、サイファーとスコールが、このスーぐらいちっちゃかった頃からかもしれない。
 ストローを差したジュースのコップをスーに渡してあげて、わたしも向かいのソファに腰を下ろした。
「サイファー、スコールが笑ってる写真持ってる?」
「…ねーなぁ。だいたい、笑ってるとこ自体、滅多に見なかったしよ」
「笑うと可愛かったのにねー」
「ま、可愛い可愛いって言われるのがヤだったんだろうな、あれは」
 他の人はいまだにわたしに気を使って、なかなかスコールの話をしてくれないけれど、サイファーはいつも自然に、一緒にスコールのことを思いだしてくれる。
「あーあ。こんなことなら、無理にでも迫って、さっさと結婚式挙げちゃえば良かったなぁ。そしたらきっと、写真もいっぱい残ったのにね」
 名字も、レオンハートになったのにな。
「あいつ、そういうの嫌いだろ。結局ぶすったれた写真ばっかりになったんじゃねーの?」
「えー、ひどい! …そうかなぁ?」
 こんなふうにサイファーと、スコールの話をしていると、とても心が安らかになる。
 サイファーの中にもまだスコールが生きていることが伝わって来るのが、今のわたしには嬉しい。
 今でも彼を愛してるのは、わたしだけじゃない。
 それは、若いころには想像もしなかった、不思議な形をした幸せだ。
 わたしたちふたりで話しているのがつまらないスーが、サイファーの上着の裾を引っ張る。
「ね、サイファー。ハイペリオン、見たい」
「ああ? …お前も好きだなぁ。危ないから、見るだけだぞ?」
「うん。さわらない。やくそく」
「約束な」
 サイファーがラグの上に、クロスソードのレリーフの付いたケースを開けてくれる。
 スコールのリボルバーより一回り大きくて、黒く仕上げた刀身もスーには珍しいのかもしれないけど。
「スーってば、こんなの見て面白いの?」
「うん。…この前と、ちょっと形、ちがう?」
 どこが違うのか、わたしには全然分からない。
「へえ、お前、よく覚えてるなあ。そうだ」
 これにはサイファーも本当に驚いたみたい。
「ココが弱ってきたんだけど、もう出回ってる部品が無くてな。ゼルんとこで作ってもらったんだ」
 ゼルはB.G.で格闘技を教えながら、バラムにある自宅兼工房で、こういう珍しいパーツや、アクセサリなんかの注文を受けている。
「あいつ、またガキが生まれるからとかってボりやがってよー。でもま、前より、もっとカッコ良くなったって思わねえ?」
 スーは嬉しそうに「うん」とうなずいて、それから、サイファーを見上げて尋ねた。
「…サイファーは、これ、いつからもってるの?」
「さあ、いつだったっけな。最初はブレードの無いソードから始めて、備品のぼろっちいガンブレ借りるようになって…自分専用にハイペリオンを持つようになったのは、15になったあたりだな」
「15さい?」
「そうだ。火薬の扱いは危ねーからな」
 スーはすごくがっかりしちゃったみたい。
 ちいさな彼女には、想像もつかないほど先の話だもんね。
 今度のクリスマスよりも、来年の4月の誕生日よりも、もっと未来の話。
 15歳になったスーを思い浮かべて、わたしは思わず微笑む。どんな女の子になるんだろう。
「そんなにがっかりすんな。どっちみち、お前はガンブレなんか振り回さなくたっていいんだ。俺やスコールは問答無用でガーデン送りだったけど、スーはそれ以外に、いくらでもやることあんだからよ」
「嫌だ。スーもガンブレード、欲しい。…強くなりたい」
 そんなところは似なくてもいいのになぁ…。
「そんなこと言ってるとお前、ホントにスコールみてえになっちまうぞ?」
 サイファーの顔は嬉しそうに緩んでるけど、わたしの胸のうちは複雑。
 これでバラムに戻ったら、スーはガーデンに入りたい!って言いだすに決まってるし、そうなったらわたしの大切なスーは、最後には父親と同じように、危険な仕事に就くことになってしまう。
 ひとつきりの命なのに、スコールはあの日、ガーデンの任務のために迷わずそれを投げ出したんだ。
 しゃがんだサイファーの隣にぺったりと座って、まだ何か熱心に質問しているちいさな後ろ姿。
 このスーに、同じ道を歩ませたくない、って思うのは、やっぱりわたしのわがままかな。
 スーはまだ小さくて、ガンブレードが何をする道具なのか、良く分かっていないだけだって思いたい。

「サイファー、…も、帰るの?」
 夕方になって、帰り支度を始めたサイファーを見上げて、スーは悲しそうな声を出した。
「そんな顔すんなって。また遊びにくっからよ」
 サイファーはちょっと困った顔で笑い、かがみこんで、スーの髪を撫でる。
「今日は来てくれてありがとね、サイファー」
「ホントはもっと来てえんだけど、今、ちょうど組織編成が変わったばっかでな」
 そう言ったサイファーは不意に真顔になって、真っ直ぐにわたしを見た。
「…だけどリノア、必要なときは遠慮なく呼べよ。俺は一応お前の騎士で、それが最優先なんだからな」
 こんなふうに離れて暮らしているのは、確かに、あんまりいいことじゃない。
 左手首のバングルは、わたしが変わらず魔女だってことを思い出させてくれる。
「ん、ありがと。…大丈夫。パパの具合が落ち着いたら、バラムに戻るつもりだし」
「親父さんによろしくな。それじゃ」
 わたしにそう言ってから、サイファーは身をかがめて、スーの柔らかな頬に「またな」とキスした。

 スーはサイファーが帰った後もずっと、キスされたほっぺを押さえて呆然としていた。
 サイファーがスーを可愛がってくれるのは嬉しいけど、これ…大丈夫なのかなぁ?

 最後まで読んでくださったかた、どうもありがとうございます…。
 リノアが歳の割にちょっと落ち着き過ぎな気もしますが、お母さんだとこんなかんじかな、と。
 娘スコールはスコールよりやや濃いめのブラウンの髪に、青い目で想像してます。
 リアリティの無い幼児ですみません。身近に居ないので、適当です。
 青い目あり得なくね?とか言うツッコミもファンタジーなのでスルーです。ファンタジー万歳!
 まだ続きます…。次からいきなり15歳になった娘スコールの一人称になります。
 よろしかったら、また後日お付き合いください!