12月24日、素晴らしい天気の朝、リビングルーム。
わざと表紙が見えるよう、ソファに転がって雑誌を眺めていると、不意に上からひったくられた。
「…あんた、変なもの読むなよ!」
視界が開けて、見下ろす蒼い目と目が合う。
「人聞き悪りーな。せっかく、うちのトップの戦略とやらを勉強してんのに」
別に、上司に目くじら立てられるような、いかがわしい雑誌じゃねえ。
業界誌…と呼んでいいのかわからないが、そこそこ売れてる軍事系情報誌だ。
巻頭インタヴューのスコールは相変わらずの仏頂面だが、流石にプロが撮った写真は際立っている。
「あんたのは冷やかしだろ」
「ま、お前が何語ってんのか興味あってな」
よっ、と腹筋を使って起き上がると、ラグの上にスコールの荷物が広げてあるのが目に入る。
「…喋ることなんかないのに、広報が勝手に引き受けてくるんだ」
表紙に写真使うなんて聞いて無かった、とスコールは不機嫌だ。
「俺のだろ、返せよ」
ソファから手のひらを突きだすと、スコールはしぶしぶ取り上げた雑誌を俺の手に戻した。
「お前、朝飯は?」
「やめとく」
昼夜がっつり系か。あの魔女、かなり食うからな。
俺はもともとオフだが、スコールの方は、並々ならぬ根回しと尽力の末に勝ち取った有休だ。
今日の予定は訊くだけ野暮で、その後、明日からはエスタに年明けまでの出張が入っている。
作業に戻った奴は、ラグにあぐらをかいて、スーツケースの中味と手帳のリストとを見比べている。
「エスタは、そのまま直行か?」
「…多分な。留守はアーヴァインに頼んである。面倒起こすなよ」
「へいへい」
例のエスタ大統領が「SPに正月休みをあげたいから」とかいう理由でSeeD派遣の依頼をしてきて、もちろん指名はスコールだった。出張っつっても、里帰りみてーなモンだ。
荷づくりの仕上げをしている手元に、宝石店の細長いパッケージが見えた。
「ふーん、プレゼントはネックレスか?」
「…」
今日会う相手に渡すんだろう。スコールは「何で分かるんだ」って顔で睨んでくる。
「んなの、見りゃ一目瞭然だろ。しっかし、お前が女にクリスマスプレゼントとはなぁ」
「…」
奴は無言で洗面所に向かい、シェイバーとフォームを取って来て、スーツケースに入れる。
「ついこの前まで、神様なんか信じない、なんて拗ねてたのによ」
「…」
手帳を広げ、何やら書きこんでいるスコールはこっちを見向きもしねえが、おそらく聞くだけは聞いている。
「女が出来て、神様とやらが見えたか? ん?」
「……単なるイベントだ」
俺の挑発に反応しないフリをしているスコールの頬が、だんだん赤くなってきた。
「そういうの、くだらないって言ってたじゃねーか」
「イベントを大事にしろって、耳にタコが出来るほど聞かされてるんだ」
「なるほど、当の相手の指南なら間違いねーな。初心者も安心だ」
「…」
今のはカチンときたハズだ。
「そんで指揮官殿、今日はデートですか。いやはや、羨ましいこって」
「わざわざ棒読みで嫌味言うな」
「ちゃんとゴム持ったか?」
スコールは、下品なジョークが嫌いだ。
「……サイファー」
抑えた声、ゆっくり振り返る身体から立ち上るオーラで、かなりの内圧が掛ってるのが分かる。
「何だ?」
ブチ切れるのを期待したが、スコールは耐えた。
「……俺が居なくても、門限守れよ」
「……へいへい」
ガンブレを下げ、プレゼントやエスタへの土産の入ったスーツケースを引いてスコールは出掛けた。
ちぇっ。あいつ、忍耐強くなりやがって、ちっとも乗って来ねえ。
指揮官ってポストのせいもあんだろーが…
「あーあ。つまんねーの…」
独りになった俺は、ソファに転がった。
* * * * *
夜は一応、ガーデン内の独り者の集まるパーティに顔を出した。
生意気にも、今年はチキン野郎がデートで欠席しやがった。
年中ぶすったれてるスコールといい、縁が無さそうなほうから売れて行くのが納得いかねー。
ファンクラブまであんのに何故かモテねえキスティスはやたらと酒を呷ってるし、アーヴァインの野郎は女子に纏わりつかれてヘラヘラしつつ、はしゃぎまわるセルフィをストーキングしている。
酒の勢いか、俺に話しかけてくるヤツも居て、適当に飲んでいたが、どうもいまいち楽しめねえ。だらだらと時間だけが過ぎていき、気付いたら門限間近だった。
「時間だから帰るぜ」
幹事のセルフィをやっと捕まえて断りを入れると、仰け反られた。
「えーっ、もう? まだワイン残ってるのに~。じゃ、続き、もとはんちょの部屋でやろーよー!」
「セフィ、無茶言っちゃだめだよ。あのブロックは出入りのログが残るんだから~」
「いいじゃーん、残ったってえ」
「後でスコールに怒られるよ~!」
なんだかんだ言って、ヘタレ野郎は意外と常識派だ。
「お前らは気にせず続けろよ。じゃな」
「そうね。残念だけど」
微笑むキスティスの前に、ボーリングのピンみてーにボトルが並んでいる…。そのへんがまずいんじゃねーのか、センセ。
ホールからひとり廊下へ出た俺を、セルフィが追い掛けてきた。
「ねえねえ、いいこと教えたげる!」
「んだよ」
「好きな人の写真を枕の下に敷いて眠るとね~、その人の夢が見られるんだよ~!」
「ああ?」
何だ、その脈絡ねえ展開は。
「こんなに早く帰っちゃうなんて寂しいでしょ~? せめて良い夢見て欲しーなーと思って」
へへえ、と酔い崩れた笑顔に悪意はなく、どうやらマジで励ましてくれてるつもりらしい。
「…お前、そんなことやってんのか?」
女子ってすげーな。ガキでもねーのに、そんなあっさり素で夢見れるのか。いくらロマンティストの俺様でも、そんな少女趣味なのはハードル高えぜ。
「うん!! この間もちゃんと、ラグナ様の夢みたんだから~!」
ヘタレ野郎も報われねー奴だな…。
試してみてね~!と手を振るセルフィに適当に手をぶらぶらさせ、管理棟へ向けて俺は歩きだした。
* * * * *
部屋へ戻ると、当然だが独りだ。しかも、すげー冷え冷えとしてる。
「うう、寒み…」
暖房を付けても、なかなか効いて来ねえ。
飲み足りなかった俺は、スコールの酒を勝手に飲んだ。
まだるっこしくて、いつもは炭酸水で割る液体をロックで何杯か流し込むと、胃と食道が温かくなった。
「やっと酔いが回って来たか…」
リビングでテレビを見る気にもなれねえ。どうせクリスマス一色だ。
俺はグラスを持ったまま、自室に戻った。
今頃スコールは…あの魔女と仲良くやってんだろうな。
サイドテーブルにジンのグラスを置き、ベッドに背中から倒れ込む。
「つまんねーな…」
天井に愚痴るなんざ、俺らしくもねえが…スコールの奴、すっかり魔女のケツに敷かれちまったな。
あいつがあんなに女に入れ込むタイプだなんて…思わなかったぜ。ついこないだまで、ガンブレと光りもんにしか興味ねえガキだったのに。
去年のイブは、訓練施設でふたりで決闘してたっけな…。
「あんた、こんな日にまで喧嘩売って来るな!」とかいいながら、あいつ、きっちり買ってくれてよ。
まあ、スコールの言うとおり、施設の奥で逢引中のカップル共からは心底呆れた目で見られたけど。あいつも切れ気味で、お互いへろへろになるまでブレード振りまわして……。
ついつい、デカイため息をついちまう。
楽しかったよなー…。
少なくとも、俺の方は、楽しかった。
「…つっまんねーの」
ぽすん。寝がえりを打ったはずみで、俺は枕をベッドから突き落とした。
何でもスコールより先に体験しねーと気が済まなかった俺は、もちろん女だって知っている。
女と遊ぶのは、それなりに楽しい。
だが、それなりはそれなりでしかねえ。
ひととおり遊んでみて分かったことは、…やっぱり、俺にとってスコールは特別だってことだった。
目を閉じると、いつも隣の席で、頬杖をついていた横顔が浮かんでくる。あいつが、あんなふうに自分を女に合わせるようになるなんてな。
着替えんのも面倒になった俺は、適当に服を脱ぎ、その辺に放り投げた。
代わりに落ちた枕と、落ちていた雑誌を手を伸ばして引き上げ、ふと、セルフィの言葉を思い出す。
(好きな人の写真を枕の下に敷いて眠ると…)
「くっだんねー…」
と言いつつ、酔っぱらった俺は、スコールの映った表紙の上に、戯れに枕を載せてみる。
こんなひと手間で見る夢を選べるってのか。まったく、女子のロマンってのはお手軽だぜ。
「ハ…」
リモコンでライトを落とし、ベッドに潜り込む。
雑誌の上で枕が滑るな、と思っているうちに、意識が途切れた。
* * * * *
誰かの気配がする。
…スコールだ、と俺は目を閉じたまま思い、瞼を持ちあげると、薄暗がりのなかで、覗き込んでいた目と目が合う。
「え」
やっぱりスコールだ。
オイオイ、女子のロマンも馬鹿に出来ねえな…こんな速攻で霊験あらたかなのかよ。恐れいったぜ。
俺も驚いたが、奴も驚いたらしく、目を見開いて固まっている。
「あ…」
昼間とほぼ同じ構図だが、今はうろたえている顔が妙に可愛くて笑えた。
「なに、お前サンタだったの? それともプレゼントの方か?」
上掛けを退けて、ヘッドボードに置いていた奴の手を捕まえ、思い切り引いた。
「わ! ちょ、」
バランスを崩したスコールが、俺に覆いかぶさるように倒れる。
「あんた、何す…」
奴が体勢を立て直す前に、首の後ろに手を回し、唇を塞ぐ。
なんだ、やってみるもんだな。楽勝じゃねーか。
なんで今までやんなかったのか、不思議なぐらいだ。
すぐに突き飛ばされるかと思いきや、離れようとする手を握りこむと、それ以上抵抗が無かった。
唇をずらして、何度もそっと押し付け直し、感触を楽しむ。
「ん…」
無意識なのか、微かに漏れる声。
そっと薄目を開けて窺うと、スコールの閉じた瞼が見えた。
これは…ホントにこのまま…進めちまっていいのか?
重なり合った胸に、スコールの早い心音が、直接響いてくる…
スコールお前…俺とキスして、そんなにドキドキしてんのか。
やべー、俺いま…すげえ幸せかも。多分夢だけどよ。
この際、夢でもいい。…夢ならいいよな。
固まっている身体に手を滑らせると、スコールはまだ分厚いジャケットを着ている。
ベルトもごついし、こりゃ脱がせんのが大変だぜと思いながら、唇の合わせ目を舌でなぞった途端、ガン! と額に激痛がして、目の前に星が散った。
「ね…寝惚けんのも、いい加減にしろっ!」
上擦った声が降って来た。
「うー…」
頭突きされた額をさする。油断してただけに効いた…。目が開かねえ。
スコールの気配が遠ざかるのに気づいて、引き留めようと伸ばした手が、空振りする。
「おい、待てよ、スコール」
シュン、とスライドドアが開閉する音。
「痛ってぇ…」
やっと目が開いたときには、もう逃げられた後だった。
「……」
なんなんだ…。
額がじんじんと骨から痛む。
クリスマスイブのベッドに、気になる相手が向こうから来りゃ、どう考えたって食うだろ普通。
それに…嫌なら何で、あんなに長い間キスさせてたんだ?
良いのか悪りーのか、訳わかんねー夢だった。
* * * * *
クリスマスの神聖な朝に、最悪の目覚めだ。
「あー…クソ、頭痛て…」
割れそうに痛む、って例えは、こういう時使うんだな…。
人の酒だと思って、つい深酒し過ぎたか…。
Tシャツと下着だけで寝ちまったから余計にベッドから出にくいが、便所に行きてえから仕方ねえ。
ロクに目が開かねえまま床に降りて、一歩歩くなり何かを蹴っ飛ばした。
「?」
目を凝らすと、ラグの上に、ツチノコみてえな物体が2本転がっている。
「…なんだこりゃ?」
よく見ると、それは俺の靴下で、新品のレザーグローブが片方ずつ詰め込んであった。
「…」
引っ張り出して嵌めてみると、ぴったり俺のサイズだ。
黒いグローブを外して眺め、回らねえ頭で考える。
今日はクリスマス。……そうだな。
クリスマスにはプレゼントがつきものだ。……そうだな。
本当に靴下に入れる律儀な奴は、滅多に居ねえと思うが。
……この部屋に無断で入れる人間は、俺の他には一人だけだ。
良く見ると、ゆうべ床に俺が脱ぎ散らかしたはずの衣類が、椅子の背にまとめて掛っている。
「スコール…」
あいつ、戻って来たのか。夜中に。
「やべ…」
思わず、その場にしゃがみこんだ。
あいつはこれを…プレゼントを、置きに来たんだ。
だから、俺に見つかってあんなにうろたえてたんだ。
俺はそれを無理やり引き倒して…キスした。…したよな。
細身なんだが、乗っかられてみると割りと重くて。
やっぱ…夢じゃねーよな。
スコールと、本当にキスしちまった…。
「おいおい…」
マズいよなー…。いろいろマズい。
まあ、あの程度で終わって良かったっつー考え方も出来るが、
「…スコールは、そうは思っちゃくれねーだろうな…」
つーか、俺…マジでスコールとヤる気だったな。今さらだけどよ。これまで、あんまり具体的に考えねえようにしてたっつーのに…誤魔化しきかねーじゃねーか。
ふらつきながら立ち上がり、リビングに繋がるスライドドアを開けるボタンを押すと、
がごっ
…ハイペリオンのケースに、痛む額を直撃された。
スライドドアの向こう側に立て掛けてあったらしい。犯人は言うまでもねえ。
「スコール…あのヤロー」
ガキっぽいことしやがって…。
確かに、リビングに置きっぱにすんなとは言われてっけどよ。
ケースを床に置いて、とりあえず用を足しに便所に入った。
「…あいつ、まだ怒ってんだろーな…」
あんな勢いで頭突き喰らわせやがって、…あっちも痛かっただろーにな。
手を洗いながら鏡を見ると、額が赤く腫れ上がってやがる。
「ったく…」
あいつは前髪がなげーからいいけど、俺はタンコブ丸見えになんだろが。
時間ぎりぎりまで額を冷やし、遅刻気味で事務室のドアを開けると、中から歓声が聞こえた。
「助かるわぁ。この部屋、膝が冷えて困ってたのよねー」
センセがババくせーことを言いながら、満面の笑顔で膝掛けを広げている。
「あれ、僕の分もあるみたい…うわ、嬉しーなぁ! でも、スコールってこんなことする~?」
「や、スコールだろ。ついでに書類の決裁してってくれたみたいだぜ?」
「んー、たぶん、リノアと一緒に選んだんちゃう?」
どうやら、他の連中の分はデスクに置いてあったらしい。
ヘタレ野郎にはサバイバルナイフ、セルフィには…巨大なトンベリのぬいぐるみか。
…なるほどな。ナイスカップルからのプレゼントってわけだ。
格闘技のDVDだか何だか知らねーが、「あー! これ欲しかったんだよな~」と無邪気に喜んでるチキン野郎が無性に憎たらしい。
トンベリの抱き心地を試していたセルフィが、黙りこくってる俺に気付いた。
「あれ? サイファーもとはんちょの分…無かったの?」
「…いや。部屋にあった」
リノアの発案か。…そーだろーな、変だと思ったぜ。
スコールが俺にプレゼントなんてな。
そんなら何もあんな紛らわしいことしねえで、俺の分もこっちに置いときゃよかったじゃねーかよ。
憮然とする俺に、セルフィは、何故かパッと顔を輝かせた。
「ね~、もしかして、…靴下に入ってた?」
「なんだかしらねーけどな、無理やり」
俺の答えに、セルフィは笑い転げた。
「もとはんちょ、昔パパ先生が手渡ししたらめっちゃ怒ったもんね~。『こういうのは』」
「『靴下に入れて、枕元に置くもんだろ!』って食ってかかってたっけ、そう言えば、ハハ」
アーヴァインの奴まで、腹を抱えて笑い始めた。
「スコールはんちょも、そこまで思い出したんだ~」
懐かし~、と盛り上がる奴らの笑い声。
そーかよ。俺のせいかよ…。
スコール、テメエもつまんねーこと思い出してんじゃねーよ!
俺は気分を落ち着かせようと、コーヒーを入れにミニキッチンに入った。
やかんを火にかけて、無意識に腕を組む。
これで事情は大体分かったが…スコールが戻ってきたら、何て言えばいいんだ?
夢かと思った…じゃマズイよな。
夢ならキスすんのかってことになっちまう。
年も改まることだし、いっそ何も無かったことにしてスルーしちまうか。だが、物を貰っといて礼も言わねえのは流儀に反するっつーか…。
あのグローブは、たぶん…リノアじゃなくて、あいつが選んだんだろーし。わざわざ枕元まで持ってきたのは、あいつなりの好意だったんだろーし…
いっそ、言っちまうか?
夢かと思ったって。
…くだらないジンクスのおかげで、お前の夢を見たのかと思ったって。
リノアに渡すプレゼントの箱を扱う、スコールの丁重な手つきを思い出す。あれこれ迷った末に選んだんだろう。「何で分かるんだ」って嫌そうな顔。
…。
…。
クソ。
ここで言えるもんなら、とっくに言ってるよな…。
俺は長い溜息をついた。
やっぱ、勘違いしたことにしといてやるか。
「お前が俺に気があって、勇気を奮ってベッドに来たのかと思った」っつえば、つじつま合うだろ。
俺は、別にどっちでも良かったっつー路線で。
恩着せがましく、あいつが嫌がるような言い方でネチネチからかってやりゃあ、何とか収拾が…
「ねー、もとはんちょ。めっちゃ焦げてない?」
「ああ!?」
顔を出したセルフィの声に、慌てて火を消したが既に遅く、やかんは真っ黒だ…。
「もとはんちょ、だいじょ~ぶ~? 何かヘンだよ?」
「ヘンじゃねーよ」
「おデコも赤いし」
「赤くねーよ」
焦げたやかんをシンクに下ろして水をかけると、肉が焼けるような音がして、水蒸気が立ち上る。
あー…もう駄目だなこりゃ。買い替えかよ。
「…スコールはんちょ、居ないとさびしー?」
「さびしかねーよ!」
なんでこう女ってのは、ピンポイントで訊かれたくねえことを訊いてくるんだ…。
こんだけ不機嫌オーラを出してるっつーのに、セルフィはさらに突っ込んできやがる。
「ねーねー、あのアレ、効かなかった~? 枕の下に写真の…」
「効くわけねーだろ!」
「あ、やってみてくれたんだ! でも、う~ん…写真が古かったのかなぁ?」
「…やってねーよ!! うるせーな!!」
「やーん、もとはんちょコワ~イ!」
白々しく泣きマネしながら、小悪魔は事務室に引っ込んだ。
ったく、クリスマスなんて、マジでくだらねーイベントだぜ…。
やかんの焦げを、駄目もとでタワシでガシガシ擦りながら考える。
だがまあ…あいつが帰って来るまでに、お返しと詫びの印に何か買っとくか。何にすっかな。
…何でもいいが、靴下に入るモンにするかな。
ついでに枕元に立って、ちょっと脅かしてやるのもいいかもしれねーな、と俺は笑った。
2012.12.24 / Surprise Present : Seifer / END